B型だもの。

分散化していく世界の片隅で。

沖縄を旅するのは3回目。山羊を食べようと思った。めちゃくちゃ臭いともいう。しかし、一度ハマるとやみつきになるともいう。

行ったのはこちらのお店。「山羊料理さかえ」。事前予約しようと何度電話してもつながらない。行って理由がわかった。
入口の引き手を引くと、8席ほどのカウンター。テーブル席2つ。畳の小上がり3つ。カウンターの中からお姉さんが「いま満席なのよう。あー、でもッ、そのテーブルでよかったらどうぞッ」指されたテーブルの上になぜか巨大な扇風機。
扇風機を床に下ろして「ビール2つ」注文すると、オリオンビールの瓶が2本、コップ、おしぼりがカウンターのお客さん経由で手渡される。

山羊の刺身、てぃびち、海ぶどう、島らっきょうを注文する。そこに店のお母さんが帰ってきて「お母さんからお土産」となぜかスーパーのビニール袋に入ったミカンが回ってくる。

山羊の刺身。
ジンギスカンに少し似た独特の臭み。いろいろな部位が盛り合わされている。にんにくとショウガ醤油で食べる。「自分はいま獣を食っている」という気分が強烈に湧いてくる。

やがてカウンター2席が空いたので、移らせてもらう。となりの2人組の男性は奈良からきたという。「4時にお店に入ってゴーヤチャンプルー頼んで、3時間半経ったけどまだこないから帰れないんです」と笑っている。

「あーッ、ゴーヤチャンプルー!!」と叫んで、お姉さんが巨大な島豆腐を切り始める。しかし切っている途中で、ほかの客にも豆腐を味わってもらいたくなったらしく、大皿に生の豆腐を切り分ける。「ひとり2個以上ねッ」というが、どう見てもその分量はない。客から客に手渡され、おいしい島豆腐をみんなで味わう。当然、ゴーヤチャンプルーは忘れられている。 

なぜかカウンターに放置される豆腐。
「クワンソウの花の酢漬け」を誰かが頼む。「これ本当においしいのよッ。お兄さんも食べる? お姉さんは?」3組が手を挙げたので瓶から取り分け始めるが、途中、クワンソウについて説明したくなったらしく、棚から「今帰仁クワンソウ」というパンフレットを持ってきて見せてくれる。回覧されるパンフレット。瓶から取り分けようとした3枚の皿はカウンターにいつまでも空のまま。(なお15分後くらいに思いだしてくれた。おいしかった)

サービスのサラダが回ってくる。しかし、てぃびち、海ぶどう、島らっきょうはこない。「ゴーヤチャンプルーを3時間半待っているんだけどこないんだよ」と隣の2人組が再びいう。「あーッ、ゴーヤチャンプルー!!」お姉さんが豆腐を切り始める。「こっちにもください!」つくり始めた料理に便乗して注文するのが最も早くありつく方法だと知る。 

「おいしいものをつくる自信はあるのよう。でも覚えていられる自信はないわッ。あっ、そういえば誰か山羊汁頼んでなかった?」「頼んだよー。いま山羊育ててるの?」とテーブル席の常連らしい客。すかさず「こっちにもください!」奥で電話がジリジリ鳴る。「ごめん、出られない!! あたし今忙しいッ!」お姉さんが電話に向かって叫ぶ。先ほどの私の電話はこのようなことになっていたのか。

ゴーヤチャンプルー。
山羊汁。
めちゃくちゃおいしい。濃厚なのに澄んだ味わいで、臭みが全然ない。スッポンの肉が入ったスープを飲んでいるみたいだ。ほかの店では臭くて食べられないという話も聞くから、よほど丁寧に処理しているのだろう。旨い。ビールの後に頼んだ泡盛の古酒によく合う。

すっかり満足した。てぃびち、海ぶどう、島らっきょうは永遠にこないようなので、お会計をお願いする。「何頼んだっけ? お姉さん、伝票書いてッ」といわれて、食べたものを思い出しながら伝票に書く。しめて6600円。

店を後にすると、お姉さんが走り出てくる。「ありがとうねえ。ありがとうねえ。きてくれて、本当にありがとう。これ、持っていって」。渡されたのは、缶入りのウーロン茶2本とオズマガジン沖縄特集。「またきてねえ」手を振り合って別れる。たぶん好き嫌いは分かれるだろうけれど、最高の店だった。

この後、さらにディープなおでん屋「悦ちゃん」へと向かう。
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